衣 clothing

手仕事の気配

日常的に手を動かしてものを作る、そういう暮らしの中にいる人々が、大好きです。

手仕事の気配を感じたくて、カザフの遊牧民の手織りの帯、テルメ・バオを夫の帽子につけました。

カザフの子供達は、お母さんの手仕事をする背中を見て育っているのだろうか。そう思うと、私も焦らざるを得ない。残したい価値観と風景は、自分も実践して残せばいい。

お母さんの壁掛け・トゥスキーズ〜想いの輪廻〜

昨年、私はカザフ人の町、ウルギーで古い壁掛けを手にしました。完全な形では無く、切り取られた跡もありました。

家族のために刺繍され、家を飾るという本来の役目を終えて、今私の元に来たこのトゥスキーズ。かすれて読めないけど、「〇〇へ 1963」と刺繍されている。どんなお母さんが、どんな子のために送ったのだろう?

私は、消えないお母さんの想いに後押しされて、家族と子供達にこの古いトゥスキーズで服を縫うことにしました。一着目は、1963年に縫われたこの布で自分が袖を通す分を縫いました。

今年、この誂えたベスト(ミシペット)を着てウルギーへ訪問しました。みんな珍しそうに振り向いて笑ってくれました。

いいねいいねと言ってくれた鷹匠のお宅の娘さんに、着てもらって撮った写真がこれです。

私の手元には、今、役目を終えたトゥスキーズが数枚かあります。ハサミを入れられない気持ちと、刺繍との対話を繰り返し、じっくり形にしようと思います。

会ったことのないカザフ人のお母さん、あなたの想いに私の想いをちょっとだけのせていいですか?

Text by Kei Hompo